当時のブログ記事より引用②
2010.12.8
長い長い手紙を書くなら。
はじめて出会ったとき。
楽器決めでジャンケンをして、たしかチョキで勝った。
そして、君に出会った。
それはそれは変わった色をした君に、
ヒいていた自分がいた。
――この楽器を、半年吹くのか。
どうしよう、と思った。
今では考えられないけど。
もしかしたら君は、いままでずっと、そう思われて吹かれていたのかもしれない。
実際、私は最初そう思った。
だけど、先輩に「すごく良い楽器なんだよ!」って言われて、
どうせ、来年には楽器変わるしって思って、
ちょっと複雑な心境で、君を使うことになった。
周りのみんなの楽器は、ちょっとサビてるけどピカピカで、私のは1個だけ緑色にくすんでいた。
君といろんな体験をして、
1年から大きな大会に出ることになって、
その大会で2ndの大役をもらって、
初めて、大好きな先輩が引退する、その辛さを知って、
難しい3重奏に挑戦して、
あっと言う間に半年が過ぎた。
楽器は変わらなかった。
2年生では、後輩が入って来て、嬉しくてはりきっちゃって、
林間学校で無理矢理アンサンブルして、
新型インフルエンザの悪夢に文化祭が襲われて、
コンクールでは予選を勝ち抜けたけど惜敗して、
ソロのコンクールで優秀賞とって、
またこの1年もあっと言う間だった。
次の年も、また君がいた。
3年生。
パートリーダーになってオロオロして、
新しくて大きくて、素敵なホールが市内にできて、そこで発表会したりして、
そこで、君の名前をもらって、
発表会では初めて緊張して、
コンクールでは念願の全国進出を果たした。
最後はパートのみんなと、卒業写真のアンサンブルを披露して終わった。
2年半、まるまる過ぎてしまった。
私の中の大切な思い出の傍らには、
いつだって君がいた。
思い出ごと、君のことが大好きになってしまった。
大好きって言葉だけじゃ言いきれないくらい、大好きになってしまった。
大大大大大大大大大好きになってしまった。
かけがえのない存在になっていた。
君は、私の青春の象徴なんだって、
最近よく思う。
先輩や後輩、同級生までもが、
私の音を好きだと言ってくれた事がある。
確かに、それは私の音かもしれないけど、
本当は、全部君の音だったんじゃないかって思う。
私以外にも、いろんな人に愛されてたんだね。
良かったね。本当に、すばらしいことだよ。
今日、賑やかなお別れ会を終えて、
できれば、君をピカピカにしてかえしてあげたかった。
それはちょっとできなかったけど。
だから、せめてでもって、オイルとグリスをちょっと差して、
マウスピースを洗って、
軽くクロスで拭いて、
君をケースにしまおうと、楽器置き場の前に座り込んだ。
座り込んでしまった。
どうしても、君をケースに入れることができない。
長かった。
短かった。
悲しい。
寂しい。
切ない。
いろんな気持ちと焦りがいっぺんにこみあげて、ヘンな感じがして、
今日、今が、君とお別れだなんて。
すこし前に、君を買い取れないかって聞いたら、
法律上学校の備品は法律上買い取れないって言われた。
きまりって不条理だね。
だから、今日どうしてもお別れをしなきゃいけない。
もっと、心の準備をして行けば良かったとも思ったけど、
どうせして行っても同じだろうと思った。
君がグレることが少なくなりますように。
君が、いつまでも良い音を出せる楽器でありますように。
これから、君を使う人に、君が愛されますように。
たくさんの願いをこめて、「ありがとう」って伝えて、
ヘンな涙がいっぱい出てきて、
やっと、君をケースにしまえた。
ゆっくりやってたら、また君を私の膝の上に戻しちゃいそうだったから、
なるべく手早くやった。
ヘンな涙は止まらなかった。
ありがとう。
ごめんね。
やっぱり、ありがとう。
大好きだよ。
最後のロックをしめて、暫くして、やっと立ち上がれたんだよ。
ヘンな涙はもう出てこなかった。
帰り道に、素敵な曲を教えてもらった。
私の天使は、君だよ。
私にたくさんの幸せをくれたのは、君なんだと思う。
ちょっと捻くれ者で、すぐにスネちゃう君だったけど、
私は、君を吹けて幸せだった。
すごくすごく、幸せだった。
きっと、この先これ以上の幸せって無いかもしれないって思うぐらいにね。
だから、これからは君が幸せでありますように。
君を使う子が、また、君の事を大好きって言ってくれますように。
君が、永く永く使われますように。
私の手には、今も緑色のシミがついているよ。
綺麗さっぱり洗い流すことは、もうないから。
もっと違うところに、色濃く残っているから。
君にも、私の跡が、どこかに残っているといい。
また会いに行く時には、もう「私の」とは言えないけど、
きっといつか会いに行くからね。
それまで、待っててね。
親愛なるホルンこと、
かたくりこちゃんへ